ハラガク

の、ブログ

アムウェイに勧誘された話

ぼくは大学を途中で変えている。
いわゆる「編入学」というやつだ。
もともとは北海道の大学に行っていたが、途中で栃木の大学に編入した。
これは栃木の大学に編入してから1年ほど経ったとき話だ。

ある日Facebookメッセンジャーに、なつかしい先輩から連絡があった。
彼の名を仮にTとしよう。
T先輩は北海道の大学時代の知り合いだ。
通っている大学はちがったが、インカレかなにかを通じて知り合った。
その後T先輩の紹介でアルバイトをはじめたこともあり、大学の悩みや将来の夢などを相談する仲となった。
「頼れる先輩」というやつだ。
ぼくが北海道の大学を去ると時を同じくして彼は大学を卒業し、道内ではそこそこ名の知れた企業に就職した。

メッセンジャーでのやりとりは

T先輩「久しぶり!元気してる?」
ぼく「元気ですよー!そちらは?」
T先輩「元気にしてるよ。ところで近々所用で東京行くんだけど、飯でもどう?ガクって今栃木だよな?」
ぼく「めちゃくちゃ近いわけじゃないですけど、電車で一本で行けますし、ぜひお会いしたいです!」

…のような当たり障りのないものだったと記憶している。
ひと月ほどやりとりをつづけ、ついに当日となった。
ぼくはアルバイトの休みをとり、電車に2時間ほど揺られ、渋谷の某カフェでT先輩と久々の再開を果たした。
近況報告からはじまり、大学時代、アルバイト時代の思い出を語り合って、これからもお互いがんばろう、なんてはげましあう…そんな流れをどこかで期待していた。
しかしT先輩が会って早々、挨拶もそこそこに話しはじめたのは彼の「飲食店経営の夢」についてだった。
札幌のこのあたりにこんな飲食店を出したい…既存店舗との差別化は◯◯で、強みはこれこれ…東京オリンピックに向けて外国人観光客をターゲットに云々…減価償却は云々…。
この時点でぼくは違和感を覚えた。
せっかく数年ぶりに再開を果たしたわけだ。
しかも東京というお互いの住む場所から遠く離れた地でわざわざ時間をとって。
「だからこそ思い出話だけで貴重な時間を消耗したくない」
T先輩にはそういう思いがあったのかも知れないし、その意見にもうなずける。
とはいえ、だ。
突然呼び出しておいての一方的な自分語り、相手の温度感を察しとろうともしない彼の姿勢には閉口した。
そしてほぼ一方的なドリームトークが終わり、ひとまずカフェを出ることになった。

正直に言おう。
ぼくはT先輩がごちそうしてくれることを期待していた。
浅ましいことだとはわかっている。
が、しかしだ。
彼はいくら北海道から出てきたとはいえ、社会人である。
今回会うにあたって声をかけたのは彼だ。
ぼくはしがないイチ学生であり、それも東京まで往復3千円以上の交通費を支払い、バイトの休みをとって出てきている。
料理だけみたらコスパの悪いだろう小洒落たカフェでランチをとったとはいえ、合計金額は3千円前後だったと記憶している。
レジでT先輩は
「端数はオレが払うよ」
そう言った。
端数…。彼の言う端数とは割り勘したときの百の位から下の数字だった。
いささか唖然としながら1,500円を手渡した。

もしこれが
「すまん、社会人一年目で余裕ないし、今回の旅費でカツカツなんだ。割り勘でいいか?」
だったらぼくはよろこんで支払っていた。
だが実際の彼の言葉「端数はオレが払うよ」に垣間見えた、なけなしのプライドにゲンナリしてしまったのだ。
いやあるいはこれはぼくが意地悪な見方をしすぎているのかもしれない。
だがいずれにしろ、「端数はオレが払うよ」と言うT先輩の顔は、3分前にビッグドリームをうそぶいていたそれとは思えないくらい、情けなく見えた。

カフェを出たぼくは渋谷某所にある、知る人ぞ知るアムウェイグッズ専門店に連れて行かれ、そこでやっと今回の誘いの目的に気づくこととなる。
よく聞くところによると、今回東京に来たのも、アムウェイの集会に出席するためらしい。
北海道の友だちにとアムウェイグッズを買い込む先輩の背中を見ながら、ぼくはきびすを返してさっさと帰りたい気持ちでいっぱいだった。
とはいえ今更帰るわけにもいかず、その後近くの北海道居酒屋に連れて行かれ、ひと通りのアムウェイトークを展開されたのであった。

「オレも最初はアムウェイが大嫌いだった、最初に勧誘してきた友だちとは一時絶縁状態にまでなったけど、紆余曲折を経てアムウェイの魅力に気付かされたんだよ…怪しいかもだけどモノは本当にいい…云々…」

そしてその挙句に言われたのが以下のようなことだ。

「今回いきなりこんな話をされてびっくりしてると思う。でも実は今回はガクをアムウェイに勧誘しにきたわけじゃないんだ。なぜならガクはまだ学生だから。お金も余裕ないだろ?ただ、社会に出るとこういうことっていっぱいあるんだ。
アムウェイだけじゃない、健康グッズを取り扱ってる◯◯だとか、保険の△△、ジュエリー販売の✕✕だとか、いーっぱい似たような商法があってむちゃくちゃ勧誘される。社会人になって一発目でそんな洗礼を受けるとびっくりして変なのにハマっちゃうこともあるし、あたふたしちゃう場合がある。だから今回ガクには免疫をつける意味で、アムウェイの話をしたかったんだ」

そのとき言えなかったセリフを今ここに記そう。

大きなお世話だボケ

そして居酒屋の会計でももちろん
「端数はオレが払うよ」
だ。
もうぼくはただただ情けないし悲しかった。
ビッグドリームを語るのもいい。
後輩に説教垂れるのもいい。先輩特権だ。
だったら最後までそのカッコイイ姿を貫きやがれ。
尊敬すらしていた先輩のこんな姿を見たくなかった。
その日はそこで別れた。

その数日後に不労所得だか権利収入だかを描いたアニメーションのURLが送られてきた。


パブロとブルーノ
それを最後にぼくはT先輩のSNSなどをすべてブロックしてしまったから、それっきりである。
今どこでなにをしているのか知るよしもない。知りたくもない。

 

なぜ突然こんなことを書いたのかというと、全く別の、数年来の仲良しの友だちがアムウェイにはまっているようで、とうとうぼくにも勧誘じみたメールが届いたからだ。

ぼくはアムウェイが悪だとは思わない。
膨大な会員を抱え、儲かってる人も存在するのだ。
確かな魅力と品質をともなったコンテンツがあるのだろう。
だがしかし、いくらモノがよかれど、世間一般で怪しまれてるブランドに手を出すというのはそれ相応のリスクをともなうのだ。
そしておかげなことに、あえてリスクをとらずとも(アムウェイに頼らずとも)、いいモノが手に入る世の中になった。
普通よりちょっとばかし丁寧なリサーチと(アムウェイ以外で)信頼できる人脈があればなおのことだ。

また、アムウェイで一山当てようとしている人もまだまだいると思う。
アムウェイを通じて億万長者になれる可能性はゼロではないはずだ。
だがしかし、アムウェイで成功できる人はどこにいたって成功できる人じゃないだろうか。
これはなにもアムウェイをよいしょする意図があっての発言ではない。
世間的に「アムウェイ=うさんくさい」というイメージが定着し、会員数が頭打ち(というか減少)となっている現在、この逆境に飛び込んで売上を上げられる人間は絶対にタダモノではない。
生半可な根性と営業力では務まらないはずだ。
ぼくが「どこでも通用し得る人材」というのはそういう意味だ。


で、あるならば、もしこのぼくが一山当てたい(当てるポテンシャルがある)人間だとしたら、あえてアムウェイは選ばない。
アムウェイという既存の枠組み、しかも恐ろしく洗練されて、水も漏らさぬように緻密に計算しつくされた組織に飛び込んで上を目指すことに魅力を感じない。
全然、わくわくしないだよな。
もちろんそういうのが性に合っている人もいるだろう。
でもぼくは違う。
頭の回転が格別いいわけじゃないし、ギフテッドな能力があるわけでもない。
けれど時に他人に頼りつつも、身一つ、裸一貫で、なにもないようなところになにかを作り上げていくのがぼくの性に合っている。
泥臭くてダサくてみっともないけど、そっちの世界で生きていくほうが、3千倍わくわくする。

アムウェイが日本で根強く残っているのって、日本の偏差値教育が背景にあるんじゃないかな。
《東大をトップとするピラミッド構造》と《お抱えのディストリビューターが多いほど上位にいけ、栄誉を手に入れられるアムウェイのピラミッド構造》
どこかダブって見える。
わかりやすくて比べやすくて容易く他人にマウント、ポジショニングがとれる世界。
ぼくはそういう世界がどうしてもしっくりこなくて、わりと早い段階で背を向けた人間だ。
今更同じような枠組みに自分の身を投じようなんて、まっぴらごめんだね。

だからぼくは、アムウェイをジャッジはしない。でもぼくは、選ばない。(了)

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